牛鬼の謂れ 

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【旧南勢町町制施行30周年記念事業創作民話】から
 「遠い昔、私たちの住む南勢町が、いくつもの山間の村や浜辺の地区にわかれ、愛洲城に殿様や侍が住んでいた頃の話です。
山の方に住む人々は田畑で米や野菜、果物などを作って暮らしていました。また、海辺に住む人は魚や海、海草を採って暮らしていました。山の方に住む人々は、日照りが続いたり、春になっても暖かくならなかったりすると作物が育たないので、そんなことのないようにいつもお祈りしていました。
 「うしおにさま、今年も日照りが続かないようにして下さいよ。」
うしおにさまというのは、五ヶ所川の西側に切り立った岩肌を見せている西山に住んでいました。牛のように大きな体で、頭には2本の角を生やし、赤い顔は毛で覆われていました。
 いつの頃からか人々の前に姿を現すようになり、最初は村人たちに大変怖がられましたが、悪い人は懲らしめても、他の人々には親切で、時には子供たちと一緒に遊ぶことさえありました。
見掛けによらず、優しい心の持ち主だったのです。
 こんなことがありました。
田植えも終わり、梅雨どきにさしかかったいうのに、いっこうに雨が降りません。日照りで稲は今にも立ち枯れてしまいそうでした。村人たちはしだいに焦りの色を濃くし、中には悪い遊びにうつつをぬかしたり、村を捨てて逃げ出す者まで出るようになりました。
 ある日、一人の若者が「五ヶ所川を掘れば、少しは水がわいてくる。これを、皆で力を合わせて田に運べば、稲は助かるかもしれない。」と言って村人たちを励ましましたが、村人たちは若者の言うことに耳をかそうとはしませんでした。
若者はたった一人で毎日毎晩川底を掘り、手桶で水を汲んでは田へ運び、皆の田に少しずつ注ぎましたが、やはり稲は元気を取り戻しませんでした。
 そんなことの続いたある夜。
何人かの村人が西山の岩場の上にピカピカッと光る物を見ました。よく見ると、なんと牛に似た怪物の目と、天に突き出した手の爪が光っているではありませんか。怪物は天を睨んで何か呪文を唱えているようです。その時、ピャーと音がしたかと思うと、突然彼の目から凄じい光が飛び出し、空の彼方へ吸い込まれて行きました。すると、どうでしょう。ポツリポツリと雨が降りはじめ、みるみるうちに田畑を潤したのです。
稲も野菜も生き返って、やがて立派な実りの秋を迎えたことは言うまでもありません。
それ以来、牛のような怪物は『うしおにさま』と呼ばれるようになり、一生懸命努力すれば必ず山の人々を守ってくれる神様として慕われるようになったのです。

いっぽう、海辺に住む人々にとっても同じような守り神がいて『かいじんさま』と呼ばれていました。
めったに姿を見せませんでしたが、ある海の荒れた日のこと。漁ができずに漁師たちが困っていると、高波の間から大きな龍のような怪物が現れ、スルスルと天に昇って行ったかと思うと、パッタリと風が凪ぎ、漁に出られるようになったということです。

ところで、山の人々と海辺の人々はどういう訳か仲が良くありませんでした。
米や野菜と魚や海を取り替えたりするので、けっこう行き来はあったのですが、交換する量に不服があると
「少ないじゃないか」 「いや、そんなはずはない」と言って喧嘩になってしまうのです。
山の人が、「お前たちは、ただ海に出て魚を採って来るだけだが、俺たちは土を耕したり肥しをやったりして、作物を育てているんだぞ。」と言えば、
「何を言う。俺たちは命懸けで漁に出ているんだぞ。田んぼでおぼれ死ぬことなどないだろう。」とお互いを罵りあう始末です。
山の人々も海辺の人々も、同じ仕事をする分には力を合わせ、助けあって暮らしをたてることを知っていましたが、海と山となるとそうはいきません。
お互いの先祖を辿れば違うはずだと言う人もいましたが、本来同じ人間に分け隔てなどありはしない筈です。
しかし、彼らはその事に気が付きませんでした。

そうしたある日、うしおにとかいじんは五ヶ所川が海に注ぐ辺りでバッタリ出会いました。最初は、お互い初めて見る相手の姿に驚き、かいじんは口から青い火を、うしおには赤い火を吹いて身構えました。
しかし、しばらくしてお互いの目の中に優しい光が宿っていることに気付き、ふたりとも山の人々と海辺に人々の仲の悪さ心を痛めていることを話し合い、そしてある決心をしたのでした。
「我等ふたりが、海の神・山の神として、別々にあるのがいかんのじゃろう。」
「かも知れんのう。いっそのこと、合体してひとつの神になれば奴等もきっと仲良く暮らすに違いなかろう。」
波が静かで空一杯に星が煌めくある夏の夜、うしおにとかいじんは、五ヶ所川の河口で出会うと激しく体をぶつけ合いました。バシッ、ガツッ、ドシャーン。
凄じい音と共に、もうもうと煙が立ち込め、辺りに漂いました。
静かです。
やがて、煙がうっすらと晴れていくと、何やら黒い影がすくっと立っています。
よく見ると頭には角が四本、背中には背びれが、おなかには縞模様が付いたうしおにでした。合体は成功したのです。かいじんと合体したうしおにさまは、山と海を交互に見ると、やがてスーッと天へ昇って行きました。
新しいうしおにさまは、山の人々も海辺の人々も、また総ての人びとの幸福を願う万人の神となって世界中を廻られるようになりました。
そして、毎年夏になると西山へ御戻りになり、南勢町の人々が仲良く暮らしている様子を見ては、安心して帰っていかれるようになったということです。」

53の桐家紋イノウエコーポレーション
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